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ひいふうみいと走り回る足音を数えようとして、すぐ放棄した。隠すことに長けた数は、宛にならない。避難場所の保健室、夜通しなにしてたのという問いに黙する。乱太郎は笑う。疑わしきは罰されないよ。瞼の裏に過る、先生、の、必死な顔。あれを誰かに教えるなんてできないきり丸は、頷くだけだった。
(土井きり「早朝の病院」「疑う」「足音」)

一生好きでいられるわけがない、分かっているからこそずるずる諦められない。好きでもない煙草を咥えて火も点けられないまま、暗い部屋で膝を抱えた。どうして抱き締めたの、聞いたら理由を教えてくれるの、はぐらかすだけなの。時間だけ過ぎて忘れられない熱を思う度、貧乏性はこういうときに不便だ。
(土井きり、現パロ)

夢じゃないの、声が漏れた。夢じゃないよと言い切る声は兵太夫が知らないくらいに細く、確りとしていた。何年ぶりだのだろう、交わした指を絡めて握り合うのは一年生以来。久しぶりという声すら形にできず、抱き竦めた体は知らない細さなのに、頭巾から零れたその赤髪だけは変わらなかったのだろうか。
(成長兵伝)

逢引みたい、言ってみると教師は狼狽えた。違うだろ、油紙を傘に張る手は、かつてきり丸よりずっと大きかったはずだ。何年も我慢した。求めても良いだろう。何が違うというのか、否。欲しくて、手にした傘の骨にすら嫉妬する愚かな若さを、にじり寄られた土井は早く知るべきだ。
(「夜の教室」「嫉妬する」「傘」で土井きり)

きっと私は先に死ぬ。だからお前にだけは私になど恋をしないで欲しかった。どうしてこうなったのかなど考えるだけ無駄だ。縋り付く腕を払いのけられず、その背中をかき抱くのは私の手だ。それでもお前を守りたいと思う。私は強欲だ。「だったら、その欲を、俺に全部頂戴」掠れた声は子供ではなかった。
(土井きり)

吐息を感じるまで近づいて止めたのは、音もなく涙が一筋零れたから。彼は抵抗しなかった。理解もしなかった。それで泣くのならば仕方ない。本当、伝七はいつも泣いてばっか、とからかうように頬を撫でて身体を離した。伝七は漸うといった調子で息を吸った。喉が上下した。その喉を食いちぎりたかった。
(兵伝)

血脈を絶てば終わることを知って尚、その眺めは甘美だ。手首の内側、紙を滑らせた傷跡に重ねて、全て終わらせるために宛がう刃は故意に満ちた。畳に拡がる赤を拭うのはさぞ骨が折れることだろう、そこに宿るこの恋を思い知ればいい。出来もしない馬鹿馬鹿しい願いを、伝七は苦無と共に投げ捨てるのだ。
(ちょっとアレな兵伝)

黒木は電気を消しカーテンを遮ると、小さな装置のスイッチを入れた。思わずわぁ、と声が漏れた。小さな頃から上がり込み慣れた黒木の部屋が星の見本市のようになって、二郭の視界に降り注ぐ。これ凄いねぇ、二郭が言えば肩が触れるくらいの近くに黒木が座り、伊助に喜んでほしかったから、なんて言う。

黒木は天井を仰いで、三つ星を数えた。二郭はその動きを追いながら、肩に触れる直截な熱に戸惑う。紛らわすように発光する装置と天井の間に手を伸ばせば、指輪のように手の上で星が光る。伊助、この距離で名前を呼ぶのは卑怯だと思った。僕らきっと幸福になるよ、なろうよ、なんて、全く彼らしくない。
(「昼のプラネタリウム」「幸福になる」「指輪」で大学生庄伊)

返り見すれば月傾きぬ、西を見れば目は細くなった。眠り損ねた朝は何もかもが輝いて、三木ヱ門はもう良いかと捨て鉢で縁側を見ていた襖を閉ざす。振り向けば、上着を着崩した潮江の、隈の酷い目が此方を見つめる。先輩、呼びかけるまでもなく、腕を引かれ、朝の訪れを惜しんでくれる彼の姿に胸が疼く。
(「朝のベランダ」「見つめる」「月」で文三木)

彼の膝に後ろから挟まれて、昼間から見るAVなんて碌でもない。休日くらい、と絆されてシフトを抜いた自分の愚かさを、ビールのアルコール分と腹に飲み干す。後ろから首筋に口付け、やらしいなぁ、と後ろからかかる声がやらしい。興奮してきた、まさか。咄嗟に嘘をつくけれど、ひどくあさはかに響く。
(「昼のレンタルショップ」「嘘をつく」「アルコール」で大学生土井きり)

彼を突き飛ばして逃げ出すとき、縺れる着物の裾が煩わしかった。瞼に視線がこびりついているのだから、せめて一人で吐息くらいつきたい。手で唇を拭う。紅と共に土井の熱も冷めるかと思うと耐えかねたきり丸は、もう一度色を囓る。つよがるしかない。悪い男に拐わされた少女の顔では、もういられない。
(「昼の図書館」「つよがる」「吐息」で土井きり)

好きだなんて言えない、なら手紙でも書けば。兵太夫の恋うている、見知らぬ誰かに気を利かせた発言だった。作法委員室には誰も来ない。兵太夫は伝七の手の甲を取る。逆らわない自分も馬鹿だが、水を含ませた筆で、恋うてる、なんて書いて、投げ捨てて、伝七の爪の先に噛み付く兵太夫も、馬鹿だと思う。
(「昼の密室」「噛み付く」「手紙」で兵伝)

床に寝転び、本を額に載せた。春の風雨の音、夜中も小平太は鍛錬に出向いたままだ。では彼は。音を立てて障子が左右に開いた。裏腹にしなやかな足音、遠慮無く覆い被さる彼は言う。「長次、雨が怖いぞ」背中を抱きしめてやると嬉しそうにくつくつと笑う喉仏、何も怖いものなどなさそうな白く冷えた肌。
(長仙が気になる)

春の嵐なら十日早ければ、と田村が言った。妙なことを、と潮江は首を傾げた。風の鳴き声、雨粒が障子を叩く音。桜は舞い上がるから美しいのでしょう、何かを悟った口調。飴色の睫は外を向いているのに、何故か潮江を捉えていた。それを先輩と眺めたかった、そう言った肩を抱いたのは、仕方ないと思う。
(文三木、桜散ったあとの春の嵐なんて)

愛した人は裏切らないと言える盲目さを羨んで、兵太夫は目を閉じた。先生に裏切られたら死ねるね、とあっさり言い切るきり丸が本気だと分かるのが腹立たしい。いっそ裏切って切り捨ててくれないかな、呟くと、無理だよ、ときり丸が笑う。目を眇めると、アレこそ、お前の愛を信じてるだろ、と嘯かれた。
(土井きりと兵伝の異業種混合戦)

金吾、と喜三太が甘い声で呼ぶ。自分の掌に食い込む爪を立てないと、躊躇う手が彼を選んでしまう。許されるならば手に手を取って、情けなく泣きながらでもいい、抱きしめてそれ以上。ねえ二人でいたい、縋りくる彼の手は今も小さいまま。この体と同じだけ心が成長していたなら、連れ去れるのか、君を。
(金喜、映画見て出てきたのがこれ?)

いけないよ、伊助の手が庄左ヱ門の肩に触れる。こんなの、まだ僕ら、声は口吸いに消える。駄目だと言って、制服ごと肩を掴んだ伊助の手は庄左ヱ門から離れない。やめたい?聞けば伊助は黙る。僕は、伊助が大事だから、君が欲しいだけ、念を押せば肩に縋る手に額を寄せて、僕だって君が欲しい、甘い声。
(庄伊、初書きで「落花流水」の習作)

あたしが好きな人は、しなやかに高い声が歌うのが聞こえる。茶色い髪なんか好き放題に伸びて、髭を剃るのを忘れて、でも兎に角あたしに優しい。怒るときも、悲しむときも、あたしを考えてる。だからあたしはあの人以外に靡かない、他の男の懸想を断るきり丸の声が浮かれていて、恥ずかしいのはこっち。
(土井きり、女装はいつだって浪漫!)

自分を律しないならば人の形を取る必要はないし、人として生きるならばある程度の我慢をせねばならぬ。畳み掛けたら、そんなことを、と伏せた顔を勢いよく上げたきり丸に言われる。いま、先生に言われても、説得力ないし無理。その細い肩を私の両手で掴まれて、腕を私の腰に回して、潤んだ目が近づく。
(土井きり、先生ったらだいたーん)

鳥兜の味が知りたいと留三郎が言う。いま手元にあるよと伊作は答えた。君が恋うのは何、と聞くと、毒の味、と答えられた。授業で毒見したじゃない、問い詰めたら、彼は僅かに明後日の方向に目線を投げる。お前に治療されたい、なんて言う彼は、少しくたびれているのかと思いながら背に腕を回してやる。
(食伊、初書きで伊作を余計見失った)

真っ直ぐに向き合おうとするその姿勢を好ましく思うが、真っ直ぐすぎるのは手に負えないのだと滝夜叉丸はしみじみ思う。向かい合って座ったまま両肩なんて掴まれようものならどこに逃げ場があるのか。七松先輩、おそるおそる呼びかけると、その性質と裏腹な優しい額への口づけ。前門の虎、後門の狼か。
(こへ滝、64書いてみよう第三弾。獣っつらして紳士)

価値なんてものに価値がないのだ。ただ好きか嫌いか。だから綾部はひたすら穴を掘るし、彼が美しいと思った仙蔵に甘える。そうやって彼に選ばれるように仕向けたのは仙蔵自身だ。だから気分が良いし、時々怖くなる。先輩、仙蔵にだけ分かる微笑を刷いた口元が同じ形で、自分を裏切る日が来る気がして。
(仙綾、64書いてみよう第二弾。厨二臭がすごいカップリングだと思っている)

雨の匂いがする、なんて縁側から空を仰ぐ三木ヱ門が言った。火器に凝る者らしく、彼は辺りの水気に敏感だ。他の後輩を帰らせて、それで、彼が言うから雨が降るのだろう。じゃあ鍛錬も、可愛い武器の手入れもできないな、笑えば、先輩はどうなさるんですか、なんて言って後輩はまあるい目を細めて笑う。
(文三木、64書いてみよう第一段。三木ヱ門が雨に敏感なのは前髪の癖毛のせいとか良いと思っている)

あなたの弟になりたい、後輩は目を閉じる。理由を問えば、家族なら、いくらでも共に在れる、なんて。甘い色の髪に指を通す。弟とこんなことはできない、それに自分たちも家族のようなものになることもできる。不器用な言葉しか吐けないが、彼は戸惑ったように笑って、潮江先輩は大胆ですね、と言った。
(文三木、兄さんの日)

子猫なら、まだ甘えたい年頃だというそれだけでごまかせる。だが目の前に跨るのは十四の色を知る猫、その色を教えたのは全て自分だが、使いこなすのは彼だ。何の実験をしているのか乱太郎をあとで一度とっちめなくては、ああでも。せんせぇ、なんて甘えた声で猫が喉仏を舐め上げて、正気でいられない。
(土井きり、にゃんにゃんの日)

黒い髪に敢えて僅かに茶色くくすんだ耳を生やした乱太郎の選択に、土井はいつのまに自分の趣味が見透かれたのかとぞっとする。先生こんなのが好きなの?自棄を起こしたきり丸は、頭巾を投げ捨てて、器用な尻尾が押し倒された土井の膝頭をくすぐる。困ったことに、悪くない、寧ろ、とても撫で回したい。
(土井きり、にゃんにゃんの日。乱太郎さんが保健委員長になった頃です)





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